ーーーー内言とWMに関して
「本を読めば頭が良くなる」
「読書は大事」
これは間違っていません。
ただし、読書そのものが極めて高難度の認知活動であるという事実は、
ほとんど語られてきませんでした。
読書とは、
文字を見るだけの行為ではありません。
それは、
複数の認知レイヤーが同時に噛み合って、はじめて成立する活動です。
どれか一つでも欠ければ、
人は「読んでいるのに分からない」状態になります。
🟥 レイヤー0:前提条件(覚醒・身体・情動)
すべてはここから始まります。
- 不安・緊張・焦り(過覚醒)
- 眠気・無気力(低覚醒)
- 姿勢・視線・身体の安定
ここが崩れていると、
脳はそもそも「読むモード」に入りません。
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読書以前に、身体と情動の問題
🟧 レイヤー1:視覚入力・眼球運動
- 行を正しく追えるか
- 視線が飛ばないか
- 文字を安定して識別できるか
「読んでいるのに、どこを読んでいたか分からなくなる」
という人は、多くがこの層でつまずいています。
🟨 レイヤー2:識字・語彙アクセス(文字 → 言葉)
ここで文字は、単なる図形から「言葉」になります。
- 音に変換するコストが高すぎないか
- 読みと意味が同時に立ち上がるか
- 多義語を文脈で切り替えられるか
👉
ここまでで、ようやく
「単語が読める」状態
🟩 レイヤー3:音韻処理・ワーキングメモリ(WM)
ここから急激に難易度が上がります。
- 文を数秒〜十数秒、保持できるか
- 読み進めても前半が消えないか
- 保持が切れる前に意味処理へ渡せるか
ここが弱いと、
- 文の途中で意味が壊れる
- 最後まで読んでも「分からない」
- 主語がどれだったか分からない
という現象が起きます。
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「考えていない」のではなく「保てない」
🟦 レイヤー4:内言の起動(決定的分岐点)
ここが、読書における最大の分岐点です。
内言とは何か
内言とは、
声に出さない「心の中の声」のこと。
黙読が成立している人の脳内では、
文字 → 音韻化 → 内言として流れる → 意味処理
という流れが起きています。
無内言(anendophasia)がここで現れる
**無内言(anendophasia)**とは、
このレイヤー4がほとんど起動しない認知特性です。
全人口の10%弱いると最近分かりました。
無内言症の人が黙読すると、
文字 → 視覚処理 → 直接意味処理(不安定)
になりやすい。
その結果
- 黙読しても「声が流れない」
- 読んだ感覚が希薄
- 内容が頭に残らない
- 分からないことに気づきにくい
本人の感覚としては、
**「見ているだけ」「通過しているだけ」**です。
内言が果たしている3つの役割
内言は、単なる音ではありません。
- 保持装置 文を時間方向に保つ
- 自己指示装置 「戻る」「主語どれ?」と自分に指示する
- 制御装置 注意が逸れたときに自分を引き戻す
無内言症では、
この3つが同時に弱くなります。
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黙読が成立しにくいのは、構造上の問題
🟪 レイヤー5:文理解(1文単位)
ここではじめて「文の意味」を組み立てます。
- 主語・述語・修飾
- 指示語(これ・それ)
- 接続語(しかし・つまり)
- 否定・条件・比較
論説文が急に難しくなるのは、
このレイヤーの負荷が高いからです。
🟫 レイヤー6:文章理解(段落・文脈)
- 今、何の話をしているか
- 因果・時系列がつながるか
- 視点・立場を追えているか
WMや内言が弱いと、
文章は「流れ」ではなく
点の集合になります。
🟨 レイヤー7:推論・意味補完
ここで人は「書いていないこと」を読みます。
- 主語の省略補完
- 常識的前提
- 比喩・含意・皮肉
文学的読解や高次読解は、
このレイヤーに依存します。
🟩 レイヤー8:メタ認知・自己制御
最後の司令塔です。
- 分からないことに気づけるか
- 読み方を修正できるか
- 目的を保持して読めるか
ここが働くと、
人は自力で伸びていくようになります。
結論:読めないのは原因がある
読書ができない人の多くは、
- レイヤー3(WM)
- レイヤー4(内言)
- その両方
で静かにつまずいています。
しかし学校では、
この構造を誰も説明してくれません。
最後に
読書は難易度Sです。
だからこそ、
- 構造を理解し
- 合った経路で
- 合った支援を行う
必要があります。
内言は才能ではありません。
獲得されうるスキルです。
そして読書は、
「できる人の特権」ではない。
構造を知った人から、つまづきを解消できるのです。
